「レナに何もすんじゃねぇぞ。」


「口のきき方にゃあ気をつけな。
そりゃあテメェ次第なんだからよぉ。」


言って、彼はきびすを返し、部屋を後にした。


ムスクの香りだけが残り、思わず嗚咽を混じらせそうになる。


ジルは悔しさの中で壁を殴り、身をすくめたあたしから視線を逸らした。


嶋さんって人は、想像以上に恐ろしく、そしてジルがここまで畏怖する相手だったなんて。



「…ジル…」


思わずあたしは呟いた。


ゆっくりと、彼はこちらに視線を移し、長くため息を吐き出しながら、髪の毛を掻き上げる。



「心配すんな。」


「…さっきの、どういうことなの?」


恐る恐る問うあたしに、ジルは目線を外しながら煙草の一本を摘み上げた。


そして、これ、と、服の上から左腕のトライバルの場所を指す。



「俺の刺青入れてる理由。」


意味がわからず眉を寄せると、彼は自嘲気味に口元を上げ、つまんねぇ昔話だ、と言った。



「花穂が死んでから、自分を責めて、無茶ばっかやってた。
止めるギンを振り払って街で喧嘩しまくってたらさ、ヤクザ殴って。」


確か、それが原因であの嶋さんに飼われるようになったと言っていたっけ。


ヤクザを殴り、間に入った彼に命を拾われた形になった、と。



「俺がギンを巻き込んだんだ。」