ジルもまた、低くあたしに吐き出した。


が、指の先を動かそうとするより先に、待てよ、と言った嶋さんの声に制止される形になる。



「先客だろう?
何も帰らせる必要なんかねぇじゃねぇか。」


「…けど…」


「それとも、俺にバレちゃマズい何かでもあんのか?」


そう、嶋さんは何もかも知っていると言いたげな瞳をジルへと移した。


煙草とムスクのような独特の香りが鼻につき、あたしはどうすることも出来ずに立ち尽くしたまま。



「俺に用があんでしょ?
だったら他のヤツが居ない方が良い。」


ジルが言うと、彼はせっかちだなぁ、と肩をすくめ、煙を吐き出した。



「お前、最近サボり癖がついてるみてぇじゃねぇか。
理由は女だろ?」


そしてストレートに、嶋さんは聞いてきた。


ジルは辛うじて顔色を変えないものの、あたしは戸惑うように視線を泳がせてしまう。



「ギンに聞いても何も言わねぇけどよぉ。
俺も一応、お前らの親代わりみてぇなモンだしよ、わかんだよな。」


決して責めるわけでもなく、彼は言う。


“親代わり”とはどういう意味だろうと思っていれば、ジルはあたしを一瞥し、チッと舌打ちを混じらせた。



「…何が言いたいんすか?」


神妙な、ジルの顔。


ムスク漂う彼は長くため息を混じらせ、わかりやすく言ってやる、と言った。



「お前、少し前まで“霧島シュウ”ってヤツ探してたろ。」