久々に来た彼の部屋は、相変わらず寒々しいものだった。


きっと夏になっても寒々しいままなんじゃないかな、と思うほど、あたたかみなんて欠片もない。


そんな中で抱き合って、あたし達は眠るのだ。


震える子猫のような互いの体をあたため合い、寄り添って静かに過ごす。


ただ、こんな一瞬だけを守りたかった。


“チャコール”とか“グランディー”って店が一体何をしているのか、あたしは未だに知らない。


ジルの仕事も、ましてやあれからギンちゃんとどうなったのかも、何も聞かされてはいないのだ。



「レナ、起きろっつの。」


まぶたを擦ると、珍しくあたしより早く起きたジルに体を揺すられた。


窓の外は今日も曇り空で、今が一体何時なのかさえも定かではない。



「お前、仕事は?」


「今日休みだよ。
言わなかったっけ?」


「聞いてねぇっつの。」


そう、彼は幾分呆れたような顔で、煙草を咥えた。


久々に深く眠ることが出来、まだまとまらない思考のままにあたしは、煙の行きつく先を探した。



「んじゃあ、たまにはゆっくり飯でも食う?」


「…ジル、仕事は?」


「まぁ、何とかなるだろ。」


そんな言葉に甘えても良いのかなぁ、と思いながら、体を起こし、着替えを済ませた。


外の世界は常に変化を続けるけれど、この部屋だけは、何ひとつ変わることはない。


彼の物に混じり、少しのあたしの物。


それがあたし達だけの空間のようで、この場所にだけは、他の誰も入れない。


そう、思っていたのに。