「阿部サン、お久しぶりでーす。」


「ごめんね、ずっと仕事が忙しくて。
レナちゃんの顔見れない間、気が気じゃなかったよ。」


「やだぁ、嘘でも嬉しいです。」


「いや、本当だよ。」


タヌキのような阿部サンもまた、あたしが席に着いて速攻で膝を触り始めた。


この店の何が嫌かって、この程度のお触りになら目を瞑るところだ。



「阿部サンのエッチー。」


「レナちゃん、今度店外デートしようよ。
美味しいお店に連れてってあげるからさぁ。」


確かにたまに来てはよくお金を落としてくれる太い客ではあるが、それにしても鼻息が荒いのが気持ち悪い。


どうせ良いこと言って体の関係にでも持ち込もうとしているんだろうが、こんなヤツにまで媚びへつらわなきゃならないなんて。



「じゃあ、暇な日があったら連絡しますね!」


「必ずだよ?」


「はーい。」


笑ってても、いつも心の中でもうひとりの自分が、そんなあたしを嘲笑う。


そして、シュウさえ居なければ、あたしはこんな人生になんてならなかったのに、って思ってしまうんだ。


アイツを見つけ出したとして、その時は一体、どうすれば良いのだろうか。



「阿部サン、何か飲んでも良い?」


「良いよ、好きなの頼みなさい。」


「わーい、阿部サン大好き!」


とにかく気持ち悪くて、オヤジ共にゲロってやろう、なんて考えまで頭に浮かぶほど。


向いてないんだってことくらいわかってるけど、それでもあたしは、この生活をやめるわけにはいかないんだ。