「ごめんね、うちの親が。
嫌な思い、させたでしょ?」


「嫌な思いしたのはお前だろ?
つか、そんなの別に何とも思ってねぇよ。」


ジルに対しては、もう謝ることしか出来なかった。


それでも彼の言葉に安堵させられる自分が居て、結局はまた、申し訳なくなるんだけど。



「あたし、愛里って名前なんだ。」


「あぁ、そうらしいな。」


「てか、知ってたんじゃない?」


そう問うと、彼は何も答えず、あたしは口元だけで少し笑った。


シュウがあたしの弟だと教えていたし、あの子の居場所を特定した彼ならば、あたしの本名だって本当はずっと前から知っていたはずだ。


だから別に、驚くことではなかった。



「どっちで呼んでほしい?」


「レナで良いよ、今まで通り。」


そう言うと、彼はあたしの顔を一瞥し、煙草を咥えた。


そもそも、自分の名前に愛着はない。


というか、両親と同じように呼んでほしくなかっただけなのかもしれないけれど。



「お前、何で“レナ”って名前にしたんだ?」


「美人でスタイル良くて、強くて何でも出来て、みんなが憧れるっぽい名前だと思ったから。」


「そんな風になりたかった、って?」


「なりたかったけど、なれなかった。」


あたしにはそんなところ、ひとつもない。


そもそも何かに憧れ、そんな風になりたいと思うこと自体、間違っているのかもしれないけれど。


結局のところ、嘘の仮面をいくら重ねたところで、あたしはあたし。


弱いままだ。