「俺、アイツが苦しんでた時、部屋で寝転がってた。
何にも知らないで、雨に打たれながら息を引き取るアイツに気付いてやれなかった。
うちからすげぇ近くだったのに…」


瞳をあげたあたしと目が合うと、彼は自嘲気味に口元を緩めた。


煙草から立ち昇る白灰色が、まるでお線香の煙と重なって見える。



「お前はさ、ちゃんと見取ってやれたじゃん。
最期まで一緒に居てやれたんだから、頑張ったよ。」


良い姉ちゃんじゃねぇかよ、と付け加えられた言葉。


その瞬間、もう枯れたとさえ思っていた涙がまた溢れ、あたしは肩を震わせた。


ジルだって、花穂サンのことを思い出して辛かったはずだ。


なのにあたしを支えてくれて、ずっと一緒に居てくれてる。



「ごめん、とか言うなよ。
お前ら姉弟、謝ってばっかじゃねぇか。」


強く抱き締められて、ふたり分の辛さが支配する。


行き場のない悲しみは宙を舞うようにあたし達を包み、シュウの死が、ただ痛ましく思えた。


互いに心の中に、ぽっかりと穴が開いている状態。


同じ痛みだけであたし達は繋がっていて、そしてもう、お互いの存在しかないのだろう。


愛でも恋でも何でもなく、ただの共有、そして共鳴。



「もうちょっとだけ、お前は“姉ちゃん”として頑張ってやれ。
ちゃんと見送ってやるまでは、そんな顔してたらまた弟に心配されんぜ?」


ジルは甘やかすばかりじゃなく、時に厳しいことを優しい口調で言ってくれる。


強がって、ちゃんと立つことも教えてくれるのだ。


だからこそ、あたしはこくりと頷いた。



「俺が居てやるから。」


そして必ず、傍に居てくれる。


もしかしたらシュウもまた、どこかであたしのことを見ているのかもしれない。


だったらせめて、あの子に恥じない“姉”でありたいと思った。