それからどれほどの時間が経過しただろう、突然に手術室のランプが消え、中からはひとりの医師の姿。


縋るように顔を上げると、彼は神妙な顔で吐息を吐き出す。



「ご家族の方は?」


「…私、です。」


少し震える声色のままに一歩前へ出ると、医師はお話しがあります、と言った。


ごくりと生唾を飲み込めば、彼はまた深く吐息を吐き出して。



「覚悟、しておいてください。」


卒倒してしまいそうなほど、目の前が真っ暗になった。


体中がその瞬間にまた震え出し、言葉を拒否するようにあたしは、首を横に振るだけ。



「今夜を乗り切れたとしても、もう長くはないと思います。」


「…そん、な…」


「脳にある腫瘍は、もういつ破裂するとも限りません。
出来うる限りのことはしましたが、後は本人の生きる力に任せるより他はないでしょう。」


決して突き放すような言い方ではなかった。


それでも、手の施しようがないのだと言われているのだ。



「お願いします、何とかしてください!
シュウを助けてくださいっ!!」


医師は静かに首を横に振り、軽く頭を下げてきびすを返した。


視界は涙に滲み、壁に手を付きながら辛うじて立っているだけのあたし。


覚悟はしていたはずだった。


もう、ずっと前からこんな日がいつか来るのだと分かっていたはずなのに、なのに「…嫌だっ…」と、去る医師に向けて呟くばかり。