「俺もあんま客の情報は流せねぇから言えねぇけど。」


そう、前置きをし、他のみんなには聞こえないようにと彼は、あたしの耳元へと声を潜ませた。



「あの男、危ない店に出入りしてる。
お前の友達との関係も、ここから見てても良い感じとは到底思えねぇし。」


だから距離取った方が賢明だぞ、とジルは付け加えるのだ。


仮にも小柴会長は、大手上場企業の会長様だし、確かに派手には遊ぶが、そんなことなんてありえないとしか思えなかった。


でも、葵とあまりにも寄り添っている姿を見ていれば、あたしだってただのキャバ嬢とお客の関係だとは思えないし。


そんなあたしにジルは、「あれ、グランディーの客。」と、ダメ押しの一言を付け加えたのだ。


グランディーが何をしているのかですら、相変わらずあたしは知らないが、到底良いお店ではないことは、もうずっと前からわかっている。


けど、小柴会長が、そんなところに出入りしているなんて。



「レナ、顔に出すな。」


言われ、ハッとした。


あくまでも今は、あたしもジルも、仕事中なのだから。


彩や他のヘルプの子たちは、彼が連れてきた若い男の子たちと盛り上がってるし、何より今日は、イベントだ。



「…ごめん、大丈夫。」


「つか、お前休みちゃんと取ってるか?
何か肉なくなった感じだし、あんま痩せられると俺も困るんですけど。」


そう、場を濁すように肩をすくめられ、あたしは曖昧にだけ笑って見せた。


乾ききっているはずの心に、さらに黒点が落とされる。


本当は、仕事の終わりにでも葵に問い詰めるべきなのだろうが、「言うなよ?」とジルにまた声を潜まされ、結局それも踏み止まったのだ。


もう本当に、頭の中はめちゃくちゃそのもの。