そんな中で、アイズの周年イベントが行われた。


蘭サンもこれ見よがしに巻き返しを図り、あからさまな営業も何度か見た。


拓真は他の客の相手があるからと言って来ることはなかったけど、代わりにトオルさんが新人を連れてやってきた。


向こうにとってもただの営業だったとは思うが、サキちゃんは飛んで喜んでいて、あたしは思わず苦笑いを浮かべてしまったほど。


そして葵は、こんな時でも小柴会長にベッタリだった。


正直、葵は可愛いとは思うが、小柴会長がこんな中流の店に通い詰める理由がわからない。



「…ジル?」


ついでに何故か、ジルが来店してくれた。


しかも今日は、若い男の子ふたりを連れてだ。


曰く、たまたま来たらすげぇ人でビビった、らしい。



「コイツら、適当に飲ませてやれ。」


ジルのそんな言葉に、明らかにオラオラ系のふたりは、ありゃーす、と喜んでいる。


と言っても、彼の“適当”は、当然ながら高いお酒。


多分仕事の延長なのだろうから何も言わず、あたしは接客的な笑みを浮かべた。


ヘルプには彩がつけられたが、そのうちのひとりと談笑し始め、すぐに彼女は場内指名を入れられる。


ただあたしは、そんなものを冷めた目で見つめることしか出来ないのだけれど。



「なぁ、あれって確か、お前の友達っつってたよな?」


突然に、ジルはそう問うてあごで葵の方を差した。


うん、とだけ返すと、彼は少し睨むような顔で、小柴会長と居る葵を見つめている。



「お前、あんま関わんねぇ方が良いよ。」


「…どういう意味?」


彼らから視線を外したジルは、それだけ言って煙草を咥えてしまうのだが、あたしはと言えば、急に不安に襲われる。


もうずっと、葵に対して嫌な予感しかしていなかったから。