「前に話したろ?
つか、ホント語るほどのことなんかねぇし。」


多分、聞かせたくないとかそんなのではなく、自分の中で感情を処理出来ているのだろう、そんな台詞。



「じゃあ、どんな顔してた?」


「普通だよ。
とりあえずチビで、ガキみたいな顔してた。」


「へぇ、そっか。」


「まぁ、お前は美人の部類だけどな。」


何だかつけ足して言われたようで、またあたしは、へぇ、と言った。


別に怒ってるわけでもなく、ホントにそんな言葉しか出てこない感じ。



「何で好きになれなかったの?」


「そんなの俺が聞きてぇよ。
多分、近すぎる存在だったからじゃねぇの?」


「じゃあ、一緒にいて、何やってた?」


「単車乗って街流したりとか、ギンと3人で馬鹿みたいなことばっかやってたよ。」


「楽しかったんだね。」


「あぁ、楽しかったよ。」


ジルは別に、花穂サンとの過去を隠したりはしなかった。


あたしはそれを、彼なりの誠意だと受け取った。


聞けば聞くほどあたしとは全然違うけど、もしかしたらジルは、似てるところは敢えて語らなかったのかもしれない。


多分それは、あたしを想っての優しさだろう。



「なら何で、あたしを飼うとか言い出したの?」


やっぱり驚いたような顔で一瞥されたが、あたしは敢えてそれを気にはしなかった。



「顔で言えばお前の方がタイプだよ。
あとはまぁ、放っとけなかったっつーか、直感的に?」


「アバウトだね。」


「そんなモンだろ、わかんねぇけど。」


惹かれ合うことに、もしかしたら理由なんてないのかもしれない。


それでもあたし達の幸せはきっと、あの街のネオンの輝きに邪魔をされている気がした。