辛かったのか、辛くなかったのかは、自分でもわからなかった。


それでもジルはあたしを独りにはさせなかったし、ちゃんと傍にも居てくれてる。


何より今日一日、きっとあたしを気遣ってくれていたのだろうな、と今更思ったし。



「真っ黒だね。」


全身真っ黒のジルは、煙草を吸ってなきゃどこに居るのかわからないかもしれない。


それほどまでに闇の色をした海を見つめながら、冷たい手を繋ぎ、その存在を確認した。



「あたしはあれで正しかったと思う?」


「正しいかどうかなんて、誰にもわかんねぇよ。
でも、お前はちゃんと弟の気持ちを考えられる良い姉ちゃんだと、俺は思った。」


素直に褒められた気がして、あたしは少し顔をほころばせた。


コテッと彼の体に頭を預けると、ジルの香りを近くに感じられる。



「シュウ、生きてたね。」


「そうだな。」


「元気だったね。」


「そうだな。」


「あたしよりずっと、頑張って生きてるみたいだった。」


今度は相槌を貰えなかった。


感慨無量と言った様子のあたしは、まだ上手く頭の中が整理出来ず、それでも単語ばかりを意味もなく投げる。



「花穂サンの話、聞きたいな。」


さすがに真っ暗闇の中でも、彼の驚いた顔に一瞥されたことには気が付いた。


ずっとあたし達は、あの日以来、避けてるわけでもないけど、この話題には触れなかった。


聞いて、良いことがあるとは思えないけど、それでもただ、知りたくなったんだ。