似合わないことは、わかっていた。


ジルの黒づくめの格好と海の色、そしてあたし達の“デート”という行為。


だから結局、ホテルに来た。


人工的な明かりと、そして煌めくシャンデリア、セックスをするための場所はまるで、夜の街の縮図のようだ。



「なぁ、レナ。
何でお前は泣いてんの?」


ジルに押し倒されてもなお、あたしは涙を零していた。


泣いてるつもりなんてなかったのに、ジルは悲しげにそう漏らすのだから。



「何か辛いな。」


呟くような台詞だった。


ジルはあたしの服を全て剥ぎ取り、肌に触手を滑らせる。


あたしだけのものじゃないこの人、そして何なのかわからない危ない仕事、そんなことばかりが頭の中に浮かび、また涙が溢れていた。


今まで、気にしないようにしてきたつもりだったのに。


なのにジルと居ると、きっと一生、嬉し涙は流せそうにないだろう。



「大丈夫だ。」


大丈夫じゃないよ、全然。



「…ジル…」


ジルは多分、今までで一番優しくあたしを抱いてくれただろう。


なのにあたしの心も涙腺も、いつの間にこんなにも、壊れてしまったのだろうか。


偽物は、所詮偽物でしかない。


本物じゃないからこそ、作るのも、壊すのも、きっと簡単なのだろう。