ジルと一緒に海を眺めた。


それだけのことで泣きそうになっていたけど、でも、あたしは笑った。


5月の塩水はさすがに冷たくて、足を浸けることは出来なかったけど、彼は「しょっぱい匂いがする。」と訳の分かんないことを言っていた。


手を繋ぎ、はしゃいでる風のあたし達はきっと、どこからどう見ても仲の良いカップだったろう。


そんなことが、また虚しかった。


ジルもあたしも、海も太陽も似合わないし、きらきらと輝く水面は眩しすぎて、思わず目を細めてしまったほど。


彼はいつも通りにさりげなく優しいし、貝殻を拾ったあたしに「子供かよ。」と憎まれ口を叩くこともあった。


キスもしたし、抱き締められもした。


それでもジルの瞳は、やはりどこか悲しげだった。


だからまた、あたしは笑ったのだ。



「綺麗だね。」


煙草とカルバン・クラインと、そして潮の香りが混じり合い、いつもと全然違うものになっていた。


伏し目がちに口元を緩めながら、ホントにな、と彼は呟いた。



「また、来たいね。」


水面は相変わらず、きらきらと輝いていた。


一瞬瞳を大きくしたが、今度の言葉に彼は答えることはせず、困ったように笑いながら、口付けを落としてくれた。


なのに嬉しさよりも、切なさの方が勝っている自分が居たんだ。


ただ眩しすぎて、涙が溢れた。