「ジルも、海が好きなの?」


「普通だよ。
別に俺、あんな塩水眺めても、って感じだし。」


「でも、その塩水のとこに行くんでしょ?」


「まぁ、何となくな。」


それだけ言った彼は、あたしからサングラスを取り、そして自分へと装着してしまう。


当然だけどそれはジルに似合ってて、やっぱりあたし達は全然違うのだと、今更ながらにそう思わされた気さえした。



「お前から弟の名前聞くの、何か久々だな。」


「そうかなぁ?」


「そうだよ。
つか、今でもやっぱ殺意あんの?」


殺意、なんてほど恐ろしいものではないけど。


それでもやっぱり、恨んでる気持ちだってなくはない。



「思い出すとね、ムカつくよ、そりゃ。
でもさ、発病する前までは、うちも一応普通の家庭だったわけだし?」


「可愛い弟だった、って?」


「まぁ、その頃はね。」


ジルがシュウのことを自分から聞いてきたのなんて、多分初めてだったろう。


てか、やっぱり思い出話をするあたし達は、違和感がありまくりだ。



「なぁ。」


「ん?」


「今日さ、デートでもするか。」


あたしの方さえ見ず紡がれた台詞に、驚くように顔を向けた。


彼には不似合いすぎる単語の上に、考えればそれは、とても喜ばしい言葉なんかではないのだから。


結局返事はせず、丸くしていた瞳を伏せるように、ジルから逸らした。


喜んだ分だけ、その後の現実とのギャップに足元を巣食われそうだから。