走る車内で窓を少し開けると、気持ちの良い5月の風が流れ込んだ。


ジルのサングラスを貸してもらったけど、あたしには全然似合わないな、と思う。



「仕事は良いの?」


「チャコールは当分休みにしたんだ。
グランディーにはギンが居るし、あとの仕事は何とかなるよ。」


“グランディー”もまた、よく聞く名前だった。


相変わらず胡散臭い名前の店だとは思うが、いつもそれ以上は何も聞かない。



「ねぇ、どこに連れてってくれるの?」


「海。」


「…海?」


問い返したのに、答えは聞かれなかった。



「海って言えばさ、シュウも海が好きだったんだ。」


「へぇ。」


「あたしは別にそこまででもないんだけどさ、アイツ、そういう写真とかポストカードとか集めてたの。
ちっちゃい頃は海賊になりたいとか言っててね、我が弟ながら馬鹿だなぁ、って思ったよ。」


「そっか。」


ひとりで喋っている気さえした。


そして何故、ジルがこんなことを計画立てたのだろうと思う。