「飯でも行くか?」


思わず顔を向けてみれば、今日もあたしの髪の毛先を指で遊びながら、彼は首を傾けるようにして聞いてきた。


小さく首を横に振り、ビール飲みたい、と言えば、良いよ、と言ったジルはわざわざベッドから降り、あたしのためだろう冷蔵庫からふたり分のそれを取り出してくれる。



「優しいじゃん。」


「だから、俺は優しいんですー。」


「女には?」


「そう、女には。」


笑ってしまうけど、でも、多分本当のことだ。


そして優しいだけで、きっと彼は誰も愛していないのだろう。


実際、あたしを膝の間に座らせた状態で女から二度ほど電話が鳴っていたが、多分両方とも別の女だろうし、あたしからすれば滑稽だとしか思えなかった。


まるで自分自身を見ているようだと思ったし、嫌いじゃないけど、それでも本気になっちゃダメなんろう。



「じゃあ、とりあえず乾杯ー!」


「はいはい。」


コツン、と缶と缶をぶつけ、あたしはほぼ一気のようにビールを流し込んだ。


今日もお客はハゲかけたようなオヤジばっかだったし、相変わらずシュウは見つからないしで、楽しみなんてひとつもない。


だからこそ、あたしはジルと一緒になって恋人気分を味わっているのだろうと思う。


時間も、ましてや季節の感覚さえもない異世界のような場所で、あたしは彼とのひとときを楽しむだけなのだ。



「お前、飲み過ぎだって。」


そう言ってすでに半分ほど飲んでしまった手の中のものを呆れたような顔して取り上げられ、あたしはあからさまに不貞腐れて見せた。


ジルからは、煙草の匂いに混じってカルバン・クラインの香水の香りがして、心地の良いそれに体を預けてしまう。