「何かあったんだろ?」


「……え?」


「それ、レナにやるよ。」


「…大事なんじゃ、ないの?」


「大事だから、レナにやる。
持ってて、んで、何かあったらそれをギューってして?」


少し心配そうな瞳が、顔の間近で揺れている。


それから先に目を逸らしたのはあたしの方で、「…ごめん。」と呟いた。



「てか、あたし持ってても指から抜け落ちちゃうし。
失くしても困るじゃん、拓真の大事な指輪だしさ。」


早口にそう言うと、彼は困ったように笑うだけだった。



「それより拓真、人気なんだね。」


「あんまレナには見てほしくないけどね。
てか、来てくれて嬉しいけど、仕事は見られたくない、かな。」


拓真の気持ちから目を逸らし続けることが、こんなにもあたしの胸を締め付ける。


ちゃんと真っ直ぐで、自分の中で罪悪感と呼ばれるものが支配している気がするから。



「じゃあ、今日は帰るよ。」


「…レナ。」


「良いよ、拓真忙しそうだし。
それに、コイツ潰れてるし、時間も時間だしさ。」


あたしの横でグッタリしている新人クンを指差すと、拓真は少し眉尻を下げた。


拓真の気持ちも、先ほどの電話も、どっちも同じ天秤に掛けられないあたしは、もしかしたら最低なのかもしれない。


握っていた指輪を持ち主である彼へと返すと、受け取る顔は寂しそうなもの。



「じゃあ今度、今日のお詫びってことで飯奢るわ。」


「うん、楽しみにしとくね。」


お客にお金使わせて詫びるホストなんて、聞いたことがないよ。


やっぱり明確になり始めた拓真の気持ちに、あたしは笑って受け流すことしか出来なかった。