「…はい。」


『久しぶりー。』


何とも間の抜けた、ジルの声。


それがまるで何事もなかったかのようにいつも通りで、あたしは手の平の中の拓真の指輪へと視線を落とす。



『お前、何か後ろすげぇうるせぇな。』


「ホストと飲んでる。」


『へぇ、お前でもそんなとこ行くんだ?』


怒るかと思ったが、彼は意外にも、あたしの言葉に驚きを見せるのみだった。


そんなことで、やっぱあたしなんか大事じゃないんじゃん、とか思ってしまうんだけど。



「…何か用?」


『何でそんな冷たい言い方してんだよ?
お前に会いたいから電話したんじゃん。』


瞬間、唇を噛み締めた。



「あたしは今、会いたい気分じゃない。」


『ホストと飲む気分、って?』


あたしがジルの言葉を拒否したことなんて、今までなかっただろう。


だけど、都合の良い時だけ呼び出されるなんて、もう嫌なんだ。


それでも電話口の向こうの彼は、ため息を混じらせるだけ。



『帰ってこいって。』


「嫌だよ、知らない。」


レナ、と彼は、ため息混じりに小さくあたしの名前を呼んだ。



「ごめん、今日は会いたくないの。」


結局、それだけ言って電話を切った。


耳元をくすぐった全然違うふたつの声色は、あたしを揺さぶるばかりする。