「今日のレナは、甘えん坊の子供みたいだな。」


そう、笑った彼は自らの右手の中指に嵌めているクロムハーツの指輪を外し、それをあたしへと握らせた。


思わず首を傾けてみれば、彼はあたしに耳打ちするように声を潜ませる。



「それ、ギューって握って俺のこと考えてたら、テレパシー感じて戻ってくるよ。」


「……え?」


「何より、一番気に入ってる指輪って知ってるだろ?
だから最後は、レナんとこに取りに戻ってくる。」


それじゃダメかな?


そんな拓真の台詞に、驚くようにあたしは、目を見開くことしか出来なかった。


手の平に握らされているのは、拓真がいつも肌身離さずつけている、大事にしてる指輪だ。


例えそれが、いつも他のお客に言ってる台詞で、ただの使い古した口説き文句だったとしても、今日だけは、心動かされてしまう。


あたしの反応を確認し、クスリと笑みを零した彼はまた、「ちょっとだけ行ってくるね。」と言って席を立った。


それでも、ジルなんかよりもずっと、ちゃんとした約束のように感じられる。



「レナちゃん。」


「あ、聖夜クンじゃん。」


手の中のそれを思わず隠すように握り締め、振り返るとそこには、本当に久々に会った葵の元彼が、口元を緩めるように笑っていた。



「ゆっくりしてってね。」


「聖夜クンも頑張って。」


だけども会話はそれだけで、彼は他のお客に呼ばれ、別のテーブルへと向かう。


まぁ、聖夜クンなりに気を使っているのかな、とは思うんだけど。


再び手の平を開いてみれば、何でやましいこともないのに隠してしまったのだろう、と自分自身に突っ込みを入れた。


刹那、あたしの携帯の着信音が響き、ポーチからそれを取り出し、ディスプレイを確認した瞬間、目を見開いた。


そこには“ジル”と表示されていて、その瞬間、心臓は別の脈の刻み始める。