一言で言えば、ベロンベロンだ。


お店は有り難いことに大盛況で閉店し、あたしはフラフラとおぼつかない足取りでトイレに向かった。


あぁ、静かだなぁ、と未だ耳に残る先ほどの賑やかな声を思い出す。


そして携帯を取り出し、ひとつの名前を表示させてあたしは、通話ボタンを押した。


コールさえ鳴らず、女の声。


もちろんそれは機械的なアナウンスで、相手の携帯の電源が入っていないことを、律儀にも告げてくれる。



「…ジル…」


ただ、涙が溢れた。


酔っ払った勢いで、電話をしたのに。


もう時間は過ぎちゃったけど、あたしの誕生日だったのに。


電話したら祝ってくれるって言ってたの、アンタじゃん。


出るとか出ない以前に、電源入ってないんじゃ、話にならないよ。



「…嘘つきっ…」


もう立ってさえいられなくて、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込めば、視界の端には左手首のブルガリのブレス。


別にお揃いってわけでもないし、あたしが可愛いって言ったからついでに買ってくれただけの物なのに。


なのにアイツがこれにキスをしたから、まるで意味を持ったように思ってしまったの。



「レナ?!」


そう、葵は驚いたように駆け寄ってきた。


彼女の胸に縋るように抱き付きながら、あたしは子供のように声を上げて泣く。


ジルの前でしか泣けないと思ってはずなのに、なのにアンタのことを思うと、他の人の前でも泣けるみたい。



「…どうしちゃったのよ…?」


それが、今日の日の余韻に浸る嬉し涙には見えないことは明らかで、葵の困惑するような呟きが消える。


アルコールの所為もあるのだろう、あたしの涙はもう、止まりはしなかった。