ジルとのキスは、疑似的にだけど愛を感じた気がした。


多分冷たいのは瞳だけで、時折優しさを見せるんだってことも、何となくだけど気が付いた。



「んな寂しそうな顔してたら、俺みたいなのにつけ込まれるぜ?」


「…どんなの?」


「最低最悪男。
骨の髄までしゃぶり尽くされる。」


「…やだ。」


「じゃあ、俺にだけ甘えてろ。」


アルコールの所為で脳は飽和状態で、いつもならこんな台詞なんで何でもないはずなのに、なのに今日は、心動かされてしまう。


まるで悪魔のささやきにも似た声色が、お風呂場の中で妖艶に響いて消えた。


何も言わせないようなキスに言葉を奪われ、あたしの胸の内をざわつかせるのだから。



「嘘でも良いよ。
だから今だけは、あたしのこと好きなフリしててよ。」


もう、何でも良かったんだと思う。


作りモノの世界に身を置き過すぎて、自分自身が見えなくなってしまう前に。


そうなる前に、ヒビの入ったあたし自身をツギハギして欲しかったのだろう。


何でジルは、こんなあたしを飼うだなんて言い出したのだろう。


だけどもそれを言葉に出来るほどの力は持てず、あたしは彼に絡み付いたままにビールを飲んだり、キスをしたり。


思えば恋人と呼べるような関係の人間さえ、もうずっと居なかった。


だからあたしはもしかしたら、ジルの誘惑が心地よかったのかもしれないけれど。