4月も半ばに差し掛かる頃、やっとあたしは久々の居酒屋の席に腰を降ろした。


向かい合う彼は煙草を咥え、ウルトラマリンの香りを漂わせている。


そんな何もかもが、ジルとは違って見えた。



「拓真、髪色明るくなったね。」


あぁ、春だから、と彼は笑った。


仕事のスーツの時とは違い、ラフな格好してる拓真を見て、あたし達は傍から見たらカップルとかに見えるのだろうか、と思う。



「葵ちゃんは元気?」


「元気だよ。
聖夜クンは?」


「元気だよ。」


そうだったとしても、そうじゃなかったとしても、それ以外の言葉がなかった。


いつもはテンションが高い拓真だけど、今日ばかりは大人しいようにも見える。



「レナだけでもさ、店に来てくれれば良いのに。」


「あたしが行ったところで、アンタの売り上げに大した影響はないっしょ?
てか、その程度なら辞めるべきだよ。」


「手厳しいねぇ。
レナはホスト嫌いだもんなぁ?」


「…わかんない、今は。」


拓真を嫌いだとは思わないけど、それでもひとりでホストクラブに行こうとは思わない。


今やどんな繋がりになってんのかわかんない彼と、どう接して良いのか悩む。