「聞きたいの。
葵のこと、ちゃんと好きだったのか、って。」


「好きだったよ。」


「…でも、ダメだったんだね。」


仕事とはいえ、好きな男が他の女と寝るなんて、やっぱりあたしにも耐えられないだろう。


不意にジルの顔が脳裏をよぎり、気付けばそんなことを呟いていた。



「言い訳はしないよ。
して良い立場でもないと思ってる。」


「…言ってあげれば、まだ大丈夫だったかもしれないのに。」


「でも、そしたらまた、アイツのこと苦しめるよ。
不安そうな顔、見てられなかったし。」


人が聞けば、きっと勝手なことを言ってるのだと思う。


それでも、じゃあマクラしなきゃ良いじゃん、と言えるほど、あたしは聖夜クンの気持ちがわからないわけじゃないから。


葵のことを大丈夫だなんて思ってなかっただろうし、後回しにしたつもりもないのだと思う。


それでも、仕事は仕事だ。


ジルは他の女と過ごしながら、あたしのことをどう思っているのだろう、なんてことばかり。


あの人に言えないことを、聖夜クンを通して責めてしまいそうで、あたしは言葉を飲み込むように拳を握り締めた。



「…悲しい。」


ただ、悲しかった。


バサバサッ、と鳥の羽音が響き、飛び立つ様に別れを思う。



「レナちゃん。
勝手なお願いだけど、アイツのこと頼んで良い?」


力ない顔を向けられ、あたしはコクリと頷いた。


彼は少しばかり顔の筋肉を緩め、ありがとう、と言う。


上手くいってほしいと、願いにも似た気持ちで居たのに、もう戻ることはないのだろう。