春になったばかりとはいえ、やはり肌寒さを覚える夜明けを前に薄暗い公園に着くと、煙草を吹かすスーツがふたり。


子供の遊具とのとてつもないミスマッチを目にし、少しばかり緊張が解けるのを感じた。



「ごめんね、遅くなって。」


「良いよ。
それに、ちゃんと怒られる覚悟してきたから。」


近寄ると、彼は煙草を消して苦笑い。


その横では何も言わず、電話の彼が煙を吐き出した。



「…別れたんだ、ね。」


そう問うた時、彼、聖夜クンはまた曖昧に笑った。


甘いマスクだからこそ、余計に優しく見えて、それが少しばかり辛くもなる。



「悪いの、俺だから。
顔以外なら、一発ぶん殴ってくれても良いよ。」


そんなこと、出来るわけがない。


それでもそんな台詞に、葵との別れを選び、ホストを続ける道を選択したことを思わせた。


幸せにはなれない職業なのだと、どこかで聞いたことがある。



「葵、泣いてた。」


「…うん。」


「でも、聖夜クンのこと責めてなかった。」


「…うん。」


「だから、あたしも責めない。」


そう言ってやると、彼は顔を背けるようにベンチへと腰を降ろした。


少しばかり肩が震えてるような気がしたのは、あたしの見間違いだろうか。


次第に空は明るくなっていくのに、それに似つかわしくないほどに、沈黙は重い。