「……シュウじゃ、ない…」


辛うじて顔形を保っていたアレだけど、絶対にシュウじゃない。


目元に確かに見えたほくろ、耳の形も首の長さも太さも、髪の毛の生え際の形だって別人のものだ。


それなのにまだ、あたしの震えは収まることを知らないの。



「安田さん。
捜索願いの出されていた霧島シュウとは違います。」


「…信じて良いんだな?」


「はい。」


わかった、とだけ言った男は、あたし達を残し、きびすを返した。


静まり返った廊下には、立ち去る安田の皮靴の音だけが、遠く離れるように響く。



「レナ、とりあえず車に戻ろう。」


足取りはおぼつかなかったけど、それでもこの場に居続けるよりはマシだった。


ジルが支えるようにしてあたしを霊安室の前から連れ出してくれるけれど、脳裏には未だ、あの残像が残されたまま。


少し前まで飲んでいたアルコールも手伝い、込み上げてきたものを喉元で止めることに必死だった。


車に乗り込んで、思い出したようにまた、涙が溢れる。


緊張の糸は解けたはずなのに、怖くて気持ち悪くて、結局は、ジルによって抱き締められた。



「レナ、大丈夫だ。
まずは深呼吸して、呼吸を整えろ。」


シュウじゃなかったんだから、良かったと言うべきなのだろうか。


でも、だからってアイツが生きてるってことでもないし、アレがシュウになりえる可能性だってある。


何よりシュウが見つかってない事実は消えてなくて、もしかしたらまた、こんな遺体の確認をするのかも。


気持ち悪くてグロいものが、何より嫌いだった。


死んだ、しかも他人を見て、あたしはどんな感情で居れば良い?