キィッ、と鳴った蝶つがい。


扉が開いて、目の前の光景とさらにひんやりとした漂う空気に、喉の奥が閉まるのを感じた。


まるでテレビの中で観るように、台の上には人の形の盛り上がりを見せる布の掛けられたモノ。


申し訳程度の線香とろうそくの置かれた台がその横にあり、死をよりリアルに浮き彫らせている気がする。



「レナ。」


ジルがあたしの名前を呼んだ。


コクリとだけそれに呼応すると、こちらを一瞥した安田は物体に歩み寄り、布がめくられる。



「……ッ…!」


金髪と、両耳のピアス。


輪郭さえも定かではないほどに腫れあがった顔は色んな色の痣が出来、切れた皮膚からはもう、血液さえも流れ出すことはない。


ひたいには無数の煙草を押し当てられた痕があり、ケロイド状になったそれは、ただれている。


むごすぎて、グロすぎて、込み上げてきた嗚咽を押し殺した。



「…ジル…」


ゆっくりと彼へと顔を向けてみれば、出よう、と言って霊安室から連れ出される。


その後ろに続いた安田が静かに扉を閉めた時、やっとあたしは呼吸の仕方を思い出した気がした。


震えて、そんなあたしをジルが抱き締めて、背中をさすってくれている。



「ネーチャン、大丈夫かい?」


気遣いを見せる安田の言葉は、だけどもやっぱり事務的で、面倒くさそうに聞こえた気がした。


それに何も答えずに居ると、ジルは一度吐息を深く吐き出し、あたしの瞳を真っ直ぐに捉え、言う。



「ちゃんと、見たんだな?」