S市はこの街から少し離れてて、高速を飛ばしても二時間は掛かるだろう距離にある。


その間、ずっとジルはあたしと手を繋いでくれていた。


皮肉にも、ジルと手を繋ぐなんて初めてだと思った。


前とは逆で、ジルの手はあたたかった。


あたたかい手の男に支えられ、あたしは弟かもしれない遺体の顔を確認しに行くのだ。


思考は全然関係ないことばかりが浮かんで消え、どこか現実味を帯びた印象がない。


ただ、シュウは死んだかもしれないらしい。



「なぁ、レナ。」


父親はともかく、あの母親が狂ったりはしないだろうか。


おまけに別人だったら別人だったで、緊張の糸が途切れてポックリ逝っちゃうとも限らない。


だったらせめて、あたしが確認してあげるよ。


そうだったとしても、そうじゃなかったとしても。


アンタらのためじゃないよ、あたしのため。


親不幸な息子より、よっぽどあたしのが親孝行なんだから。


ずっと、あたしは迷惑なんか掛けなかったのに、お母さんはあたしなんか見てくれなかったよね。



「お前とさぁ、こんな風に遠出したかったわけじゃねぇんだ。」


何で泣いてて、これは誰のための涙だろう。


ジルの声が、どこか遠くで聞こえてる。


折角手を繋いでくれてんのに、夢だったら良いのにと思った。


何であたしのために、ここまでしてくれるのだろう。


なのに何であたしは、何ひとつ言葉が出ないのだろう。


あたたかい手は、確かに夢じゃないと教えてくれてるみたいだ。


喜んで良いのか、悲しんでいのか。