「おはようございます、吉祥桃様。」


頭を下げている知らない黒スーツ。
父さんの仲間…にしては何か違う。


「確かにあたしは吉祥桃ですが。
…何用ですか」

桃は鋭い目に切り替えつつ器用に右足で左ふくらはぎをボリボリとかく。




「お迎えにあがりました」




「は。」



「…失礼しました。
『吉祥家本邸』からお迎えにあがりました」

「…は」


「御乗車お願いいたします」



「意味分からなッ…」

「勝春様の遺書、
御覧になりましたでしょうか?」


なんで父さんを…
しかも遺書まで。

なんだこのあの後ろの黒ベンツに
この黒スーツは…



妙にいやな視線を感じる。
黒スーツからだった。


あたしが行くと言うまで
少しも動かねーつもりか、アンタ。




「遺書内の記す『本家』までお送り致します」

黒スーツはもう一回頭を下げた。