レキの言うように、それは竜巻だった。
しかしこのままじゃ、船に直撃する―――…。
「…誰か!舵を!」
俺が指示すると、扉の近くにいた船員が慌ただしく駆け出して行った。
そうしている間にも、竜巻は船に向かって来ている。
俺は舌打ちをすると、何か解決策はないかと必死に頭を働かせる。
「ゼン!どうする!? もう、すぐそこにっ…」
「…レキ、生け贄になれ」
「はいー!?」
竜巻は勢いを増し、真っ直ぐに向かってくる。
「…全員、船にしがみつけ!扉付近にいる者は船内に逃げろ!」
舵が間に合わない今、俺たちが助かる術はこれしかなかった。
全員が衝撃に備えた時、竜巻は目前だった。
「―――――…っ!!」
…目の錯覚か。
竜巻の中に、あの赤紫の瞳を見た気がした。
―――その瞬間、全てが止まった。
波も、風も。
何事もなかったかのように、静止した。
迫って来ていた竜巻までも、跡形もなく消えてしまった。


