「…ゼン」
ゼンは瞳だけで私を捉えると、
「…何?」
いつもの口調で、そう答えた。
何でもない、なんてさすがに言えなくて、私は慌てて話題を探す。
「あ…、えーっと」
明るい話題、明るい話題。
そう頭の中では考えていたのに、口をついて出た言葉は、全く反対のもの。
「この船にいる人はみんな、身寄りがないって本当?」
目を見開いたゼンの顔を見てすぐに、バカなことを聞いたと後悔した。
「…何で…」
「…ニーナに聞いたの」
おずおずとそう答えた私に、ゼンは「そっか」と呟いた。
「…本当だよ。だから、あんたを乗せるのを少し躊躇った」
「………え」
「いつ、家族のもとに返せるかわからないから」
―――ゼン。
違うの。
そんな顔しないで。


