丁寧にパンにジャムを塗り始めたゼンの横顔を、私はぽかんと見つめた。


…もしかして、心配、してくれてた?


アルフィザで倒れた私が、まだ完全に回復してないんじゃないかって。


「………」


ゼンの優しさが、モヤモヤしていた私の心に、すうっと染み込む。



嬉しくて、嬉しくて。


でも同時に、悲しくなった。


私はこれ以上、ゼンを想う気持ちを強くしたくないのに…。



「ありがとう」とも「ごめんね」とも言えずに、私は黙り込む。


ジャムを塗り終えたゼンは、不審そうに視線を私に向けた。


「…あんたやっぱり…」


ゼンが口を開くのとほぼ同時に、凄まじい爆音が響き、船が大きく揺れた。


「!?」


食器はひっくり返り、所々から悲鳴があがる。


椅子から落ちそうになった私は、ゼンに支えられて無事だった。


「な、に…?」


このときの私は、まだわかっていなかった。


いつだって、闇は突然訪れるということに…。