「………やだ」
自然と、その一言が口をついて出た。
みんなが、いつもと違う。
穏やかな表情はどこにもなく、怒りと悲しみの入り交じった表情をしている。
苦しくて苦しくて、そんな想いを、ぶつけているように見えた。
「―――っ!」
止めなきゃ、心がそう叫んだ。
私は部屋を飛び出すと、狭い通路を駆ける。
やだ、やめて。
誰も傷つかないで。
その想いだけが、私の体を巡る。
闇市場の会場へと足を踏み入れたとき、その想いは虚しいものだったんだと悟った。
何人かは床に倒れていて、動かない。
赤い鮮血が飛び散っては、会場を染める。
鳴り止まない金属音が、気分をより悪くさせた。
「…嘘」
この光景が幻なんかじゃないってことは、私が一番よくわかってる。
でも、もし夢だったなら。
…そう思わずにはいられなかった。


