紺碧の地図


…何で?


何でみんな、笑ってるの?



ガラスの向こうの人たちに、私はそう問いかけたくなった。


これから行われるのは、人身売買。


笑って行うようなものじゃないのに―――…


「…始まるぞ」


イズラの言葉を待っていたかのように、会場がさっきとは一転し、突然暗くなった。


ざわざわとした話し声が、ガラス越しでも聞こえてくる。



やがて、会場の中央にスポットライトが当たり、小太りの男性が現れた。


同時に、会場が静まり返る。


『本日は闇市場にお越し頂き、誠にありがとうございます』


マイクを通して、嗄れた声が辺りに響く。


『間もなく、闇市場が開かれます。本日は…十名がエントリーされております。皆様のお気に召す商品が見つかりますよう、心よりお祈り申し上げます』


司会者らしいその男性が一礼すると、会場から拍手が沸く。


とてもじゃないけど、私は拍手なんかする気にはなれなかった。


私たちは―――商品。