船長の信頼には、全力で応えてやるよ。


俺にだって、失いたくないものはあるんだ。


「あの船の行き先は―――闇市場」


その単語に、何人かは体を強張らせた。


無理もない。


あそこは…地獄だ。


俺も、その地獄を経験したひとり。



簡単に言えば、人身売買の場。



奴隷として、売り買いされることが多いあの市場は、まさに地獄だ。


逃げてもすぐに捕まり、引き戻される。



俺はそこで―――あの人に出逢った。


地獄のような日々から、解放されたんだ。



あんな腐った場所は、いつかぶっ壊してやろうと思ってた。


「…ちょうどいいじゃんか」


俺は自嘲気味に笑うと、大声で叫んだ。



「行き先は"闇市場"!面舵一杯!」



Queen号は、錨を上げ、北を目指す。





行き着く先は、仲間が呑み込まれそうになっている―――地獄だ。