イズラが言う、"あいつ"。
その言葉はきっと、レキを指す。
「女装して、ティナに入ったってか?たいしたヤツだな」
呆れたように笑うイズラの表情を見て、私は思った。
もしかして…ゼンが男だとは、バレてない?
レキはウィッグを取っちゃったから、男だってわかる。
でも、ゼンは取ってないから、すぐに男だとはわからない。
「そっちの男はどうでもいい。女だけ連れて来い」
イズラの命令に従い、船員はレキの腕をロープで縛って蹴り飛ばすと、ゼンを連れて来た。
痛みに呻くレキを心配しながらも、私はゼンを見た。
でも、ゼンは…私を見てはくれなかった。
―――怒ってるのかも。
勝手に飛び出して。
私だけで済ますつもりだったのに、結局みんなを巻き込んで。
「………」
私は、その場でうつむいた。
悔しかった。
ただ…悔しかった。
それと同時に、自分に腹が立った。


