「…ひとつ、聞いていいか?」
「え?」
反射的に訊き返した私に、ロシュは再び口を開いた。
「初めて会ったばかりの俺の為に、どうしてここまでしてくれるんだ?」
三人分の視線が注がれる中、私は力なく笑った。
「…ロシュが、私と重なって見えたからだよ」
―――"逢いたい"。
長年心に抱いたその気持ちが…似ていたから。
たったそれだけのこと。
笑っちゃうかもしれないけど…私にとっては、大切な気持ちなんだ。
「それって…」
「私なんかより、ゼンにお礼言ってよ!」
眉をひそめたロシュの気を逸らすように、私はゼンを指差した。
「ゼン、ありがとう」
「…俺は何も」
素直にお礼を言われ、たじろぐゼン。
そんなゼンを見て笑う私たちの声が、部屋に響いた。
逢いたい、逢いたいよ。
―――だから私は、海に出たんだ。


