「孝史、お願い」

 朱音がこんな可愛らしい声を出すときは、要注意だ。

「なに?」

 不機嫌そうに俺が振り向くと、いつものように、「あのね…」と、悪びれる様子もなく朱音は、言葉を続ける。

 こんな時の朱音は、しおらしくて、可愛い。が、内容はくだらない。

「宿題やって」

 …やっぱり、くだらない。

「ヤダ」

「え~、孝史、冷たい~」

 大きな瞳で上目遣いに見つめてくる。

 …クソッ、可愛いな。


「…教えてやるから、自分でやれ」

 む~、と頬を膨らませた朱音だったが、やがて「わかった」とバッグを漁りだした。

 む~、としたいのはこっちだ、と俺は心の中で毒づく。