生まれたときから大事に育てられ、習い事や作法はすべてしてきた。
家に帰れば家事をしてくれる家政婦やお手伝いだっている。
甘く育てられてきたのは確かだが、なぜ、見ず知らずの得体も知れないこの男のに初対面で言われないといけないのか理解ができなかった。
…悔しい。
今まで男と関わることすらなかった奈緒はなんて答えればいいのか分からなかった。
ただ、悔しい。その気持ちとあらゆる葛藤が脳裏に浮かんだ。
「黙って睨んでないでなんとか言えよ。
…自分が被害者ぶるのもいいかげんにしろ。どうせ何もかも手に入るお嬢様には分からないだろうけどな」
なんなの。この人…
失礼にもほどがある。
「おい、椎、やめろって。」
いきなり聞こえた低い声の向かう方向にいた人は戸高グループの社員だった。
「うるせーな!お前はだまってろ。大体お前だって思ってるんだろ?
この気分やお嬢様誰かなんとかしてくれーって」
これは侮辱?
そりゃぁあたしだって悪かったって思う。
明らかに態度に出ていたのは確かだった。
でもそこまでこの人に言われる筋なんてあたしにはない。

