君とはじめて。〜契約恋愛〜


疲れた…

奈緒は再び毒素を吐き出すかのようにため息をついた。


トイレ行ったフリをして、帰ろうか。そう思ったときだった。


「おい」

下を向いていると上から聞こえてきた低くて太い声。
とっさに顔を上げ、聞こえてきた声の方へ向けた。


「お前、なんなのその態度」


いきなり吹きかけられた得体も知れない男からの言葉。

「さっきから見ててさぁ。そんな顔するなら帰ってくれない?超迷惑」


辺りが静まりかえるのが分かった。静かな緊張が入るかのようなそんな雰囲気だった。


…―誰?


一番にそう思った。
あなたは誰?あたしに言ってるわけ?

―少し癖のある髪に泡黒い切れ長の瞳。誰が見たって、この人の容姿を見下す人はいないだろう、そう思うような整った容姿の男だった。


「こっちは真剣なんだよ。お前みたいな遊び感覚でここにいられても困る」