「…もう二度と触らないで…さよなら」
バンっと勢いよくドアを開いて会場に戻る奈緒。
――…最低 最低 最低!
あんな無理やりなキス…
初めてては好きな人と、って…
ずっと決めてたのに…。
全然嬉しくない
あんな愛なんてないキス。
ポロポロと流れ落ちる涙がしょっぱいよ…
口を何回も何十回も手で力強くこする。
近くの化粧室に入り、自分の顔を鏡で見て驚いた。
「……ひどい顔」
まるで仮面の子。
…あたし、疲れてる。
自分でもわかった。寂しい気持ちも、孤独な感情も、全部押さえ込んで一人で抱えてきた。
今だっていつぶりに涙を流した?
結婚?
お付き合い?
頭がどうにかなりそう…
「戻らなきゃ…」
戻ってまた挨拶周りに行かなきゃならない。
まだまだ奈緒の仕事は終わってなかった。
目を少し冷やして、トイレを後にし、パーティー会場へ静かに戻った。

