「……ひどいっ…最低よ、こんなの…」
ギッと睨みつける奈緒の目には涙が溢れそうだった。
(…―泣くもんか!こんな男のせいで…!)
必死に涙をこらえる奈緒をよそに椎也はわりびれた様子さえもない。
「別にいいじゃん。ファーストキスじゃないんだろ?別に何回してもキスなんて同じだ」
―ファーストキスじゃないんだろ?
彼の言葉がグサっと奈緒の胸に突き刺さるかのように、重くのしかかった。
「そういうキスの挨拶だってあるん…」
――パシン!
強く打ちたたく、そんな感じだった。
手のひらで強く、葛藤と藻掻きながら。
「…ファーストキスだよ…」
「え?」とすぐに彼女に目を向けるとポロっと奈緒の頬に流れ落ちる雫…。
初めて見る彼女の泣き顔。
それは失望と残酷に断ち切られた彼女の顔はたかが、18才、と言えないほどの大人な顔にズシン、と突き刺さるかのように重くのしかかったのだ。
…―まさか初めてだったなんて―…
もがきやつれたかのようなそんな顔。
軽い気持ちと冗談でした椎也は、自分の行為にすぐに後悔が来る時間は遅くなかった。

