君とはじめて。〜契約恋愛〜


「いえ、ご表示した通りですよ?」

笑顔で答える店員をよそに気が晴れない椎。

「あ、そういえば先に出られたお客様が支払っていきましたよ」

「え?」

「楽しんでいられた中にいた女の子でした。多分自分の分をお支払いになって出たのではないかと。」


「…そうですか…。」

店員の言葉に椎は目を開いた。
まさか会計を済ませる女がいるなんて…


今まで合コンというお見合い感覚のようなものには誘いがあったら参加していたが、自分の分は払う、という女に出会ったのは初めてだからだ。
勘定は男持ち。それは参加している誰もは承知の上だ。…なぜ?


「…礼儀、あるんじゃん」

静かに椎は呟いた。

「え?」

何のこと?といいたそうな店員をよそに椎はほほえんだ。

「こっちのことです」


あの女が礼儀として払ったのかなんて俺には分からない。
もしかしたら勘定は男持ち、ということを知らなかっただけかもしれない。
ただ、気を悪くした俺がいる戸高グループの奴に払わせたくなかったのかもしれない。

でも、奈緒がした行為は異例なことだ。


それから椎は勘定を済ませて家に帰った。