13時、黒いスーツ姿の彼が現れた時、わたしの身体は思わず固まる。


珍しく今日は一人だ。


わたしは気付かれないように奥に引っ込むと、バイト仲間のサヨコちゃんを呼んだ。


「…悪いんだけどさ、嶋村さんのオーダー、とりにいってくれない?」


案の定、サヨコちゃんは眉をひそめる。


「喧嘩でもしたの?」


「…うん…そんなようなトコ…」


すると、サヨコちゃんはニッコリ笑ってわたしの背中を押した。


「それなら、なおさらユキちゃんが行かなきゃ!話しないと、仲直りできないよ?」


「――それは――」


反論しようとしたけど効果がなく、わたしはサヨコちゃんに押されてフロアへと出た。


…チラリと視線を向けると、真剣な表情の彼と目が合う。


わたしは小さく息を吐くと、覚悟を決めて入り口近くのテーブルへと向かった。