文学乙女

あたしはビクッとなって、彼を見る。





「え、ええ…まあ……」





あたしはおずおずと答える。





「懐かしい歌ですね。昔ラジオでよく流れてましたよ」





「そ、そうなんですか…」





「いい歌ですよね。僕もこの歌好きですよ」





「あ、はあ……」





あたしは吃りながら相槌を打つ。





さっきの迫力あった口調と違い、至って穏やかだ。





「越野さん、若いのにこういう歌好きなんですね」





……えっ!?





この人…なんで、あたしの名前知ってんの……?





あたしは不審そうになる。




さっきのこともあり、ますます不安が募ってきた。





数分間の沈黙。





あたしは意を決して口を開く。





「あ……あのぉ……」





「はい?」





「さっきは…ありがとうございました。助けて下さって……」





「いえ…」





「あの……失礼ですが…どなた様ですか?」





単刀直入な一言に、彼は警戒するあたしを見る。





じっと見ていると、突然吹き出して笑い出した。





「越野さん、僕ですよ」





「え…?」





「僕ですよ。この前、文学館で会ったじゃないですか」





「文学館……?」





あたしは不審そうに本人を見る。じっくり凝視するなり、思わず絶句した。





「さえぐさ、さん?……三枝さん……ですか!?」





「はい」





三枝さんはニッコリ笑った。