精神安定剤

川岸で、動かない男性を土手のほうから見ていた、明美はふと、顔を見られたかもしれないから、死んでいなくては駄目だと感じ、とどめを刺すために、男性のところまで降りていった。



そして、明海が男性の意識を確認しているところに、パトロール中の制服警官が、明海達の姿を見つけ、声をかけてきた。
　


「どうしました？大丈夫ですか？」



咄嗟に、明海は今、自分の置かれている状況を判断し、
　


「転がり落ちたみたいで、意識が無いの、早く救急車を呼んで。」
　


「はい、わかりました。」
　



救急車を待つ間も、制服警官は、動揺することも無く、落ち着いていた。



その、妙な落ち着きが、明海には、嫌な感じがしてならなかった。



救急車が来るとすぐに男性は運ばれ、落ちたときに胸を強く打ったらしく、意識は戻ることなく、病院で亡くなった。



男性の意識が戻るという、明海の一つの心配事は、減ったが、どうも制服警官のことは、引っかかってならなかった。
　



制服警官は、突然の出来事で、今のことをあまり考えている余裕は無かったが、後々ゆっくり、考えると引っかかる点はあったが、誰に言うことも無く、胸にしまっておくことにした。