精神安定剤

8月5日、午前零時を過ぎ、明海が家に着替えるために戻る途中の出来事だ。
 


以前の事件から一週間もたたずに、事件を起こした。



事件の感覚がだんだんと縮まってきている。



明海はそんなこと、気付かなかった。



ただ、落ち着くために、自分を取り戻すために、事件を起こしていたのだ。
 


その日は、むしゃくしゃを少しでも解消するために、あまり時間は無かったが、署から家まで、少し遠回りして帰った。
 


浅川大橋を渡りきると、土手の方向にランニングしている男性の姿が明海の目に留まった。



その男性は、特に明海の気に障ることなどしなかったし、明美の存在すら気付かずに、前だけ見て、走っていた。



そんな男性を見て、明海は、生き生きと走っているように感じ、その姿が無性に頭にきた。



そして、明海は、橋から少し離れた、土手の所まで、男性をつけていき、男性に声をかけ、男性が足を止めると同時に、男性を、川岸のほうに思いっきり突き落とした。



男性は、声を出すことも出来なく、転がっていった。




そのとき、男性は何かに摑まろうと必死になって摑んだ物が、明海の鞄についていた、キーホルダーだった。



明海は、そのことに気付かないでいた。



男性が転がっていく姿を見ながら、すっきりとしていたのだ。