精神安定剤

第一発見者は、犬の散歩の途中だった、二十歳の女性だった。



女性は、ずっと震えが止まらなく、泣いていて、声にならなかったらしい。
 


男は、つい、目を伏せてしまいたくなるほど、ひどい状態だったが、運良く一命をとりとめた。



 しかし、意識は戻るのは難しいと医者は言っていた。



 そして、被害者の身元は、持っていた免許書で判明した。



 田中悟、47歳、教師だった。



 田中には家族があった。



 田中は、研修会の帰りに、普段はほとんど外で飲むことがない人だったが、その日は、たまたま酒を飲み帰る途中だったらしい。



 そして、テンションが上がっている勢いで、明海に冗談半分で声をかけたのだ。
 


 明海は病院で、奥さんと子供を見かけたが、自分のしたことを悪いと微塵も思わなかった。



 冷静に、第三者として、見ていたのだ。
 


 今回も、犯人につながる手がかりは、見当たらず、目撃者もいなかった。



 一つだけ、手がかりがあった。



 それは、犯人の靴下と思われる、切れ端が、田中の手の中に握られていたのだ。



 捜査会議では、この、切れ端のことと前回の犯罪と同一犯なのか、違うのか、連続犯罪なのかなど、話し合いが続き、結果、同一犯ということで捜査を続けることになった。



 そして、明海には、再び充実した日々が戻ってきたのだ。