「……っはぁ…は…っ」
その頃煉は、河川敷を只ひたすら走っていた。
「…くそっ…!」
なかばイライラしながら煉は辺りを見渡す。
その不快の原因は先程から聞こえてくる、自分の名を呼ぶ声。
それはとても微かだが、泣いているようにも聞こえる。
『…た…けて…』
「…どこに居んだよ…っ」
声は登校途中、急に聞こえた。最初は誰か要るのかと煉は思ったが、樹にそんな素振は無く一度は無視していた。
けれどそれは空耳ではない。
確に、今度ははっきりと煉の耳に届き、気付いたら走り出していた。
聞き覚えのある声。
忘れたくても、忘れられない声。
でもそれを聞く事は、もう絶対に有り得ない。
「零…」
口を付いて出たその名に、煉自身も驚いてしまった。
煉は走るのを止め、歩き出す。
川はいつもと変わらず、空も風も清く澄んでいて。
なのに煉の心は、暗い淀が広がっている。燻っていた何かが、段々と容量を増して行く。
それは彼女“真神 零”がこの世から居なくなった日からずっと、心に刺さった何かだった。
