高校1年の煉は、入学当時在学中の先輩はおろか、同級生や教師まで騒ぎ出す“噂の人”となっていた。

恐らくその要因は、傷痕ともとれる、首筋から頬下まである一筋の痣。“喧嘩で付けられた傷痕”や“事故にあった時の傷痕”などあらゆる噂が一気に広まっていた。

更に噂は“未成年なのにホストしていて、その時ヤキ入れられた”とか“ヤクザの女を寝取った”等と、有り得ない尾ヒレの付いた噂も囁かれているほどで。下手なアイドルより顔立ちの整った煉だからこその噂でもあった。

「れーんくーん!」

そんな入学早々の噂も、今ではほぼ薄れている。
当初こそ近寄りがたいオーラの煉だったが、それはいつの間にか人を引き寄せる魅力に変わっていた。

「れーんちゃーん!まだ寝てんのー!!朝だよー!早くご飯済ませちゃってよーお母さん出かけるん…」
「誰がお母さんだ誰が」
「やーっと出てきたー!」
「お前ね…毎朝人ん家の玄関先で漫才すんなよ」
「だって煉遅ぇし!」
「ハイハイ悪かったよ。さっさと行こうぜ、樹」
「いつきじゃなくて、いっちゃんと呼べ!」


高校入って間もなく出来た煉の友達“畑野 樹”。
身長は煉と同じ位だか、幾分彼より身体の線は細く、少し長めの黒髪と、切れ長の瞳は一見クールな印象だが、その見た目とは裏腹に陽気で人懐っこい性格の持ち主で。

出席番号の近い樹と煉は初めてクラスに入った時、前の席に樹、その後ろに煉が並ぶ形で座っていた。
元々人見知りしない樹は、クラスに入るなり煉に話し掛け、その人懐っこさに煉もいつしか和んでしまい、今では登下校を共にするまで仲良くなった。

“不思議な奴だ”と煉は時々思う。自分の事は差し置きだ。

「樹。」
「ん~?」
「俺今日はちょっと用があるから、先に帰っててくれ」
「なになに?」
「まぁ大した事じゃないんだけどな…」

煉は自分の本当の事を、樹には全く話していない。

「んだよー!今日メシ奢ってくれる約束じゃねーかー!!」
「悪ぃ、今度埋合わせすっからさ。」

煉は軽く胸の前で両手を合わせ、ポンと樹の肩を叩いく。

「…わーったよ。」

今日はどうしても行かなくちゃならない所があるから。
そう煉は小声で呟き、二人は学校へと急いだ。