いつもと変わらない日。

少年は障子の隙間から溢れる光を、寝床からぼんやりと見つめていた。
最初青白かったそれが、だんだんと強く明るくなって行く。

「もう…朝…」

少年は独り言を呟き、ゆっくりと体を起こした。

部屋の時計に目をやると、針は七を差している。床に着いた時間から計算すると、約四時間といった所だろうか。

普通の人間にしてみれば明らかに睡眠不足と言える。しかし、彼“氷神 煉”にとって、それは日常であり、また幼き頃から身に付いた習慣でもあった。
とは言うものの、良い習慣などではなく“身に付けざるを得なかった”と言うべきが正しい。


障子を少し開いて、外の天気を確かめる。少し霧がかかっているが、そのうち晴れるだろう。

「…支度……」

煉は部屋を出て、洗面台へと向かった。外は天気が良いのに、家の中は日中を通して薄暗い。
中庭に面した座敷の雨戸を開ければ少しは日の光も入るだろうが、煉が開けない限りこの家に戸を開ける者は無く、彼もまた開ける気は無かった。

「はー…」

洗面台に立ち蛇口を捻る。冬もほど近くなってきたこの頃は、少し水も冷たく感じるが、それもお構い無しに煉は顔を洗った。
濡れた手で、ついでに髪の毛を掻き上げ鏡の中の自分を見つめる。

(髪切りてぇ…)

緩いウェーブのかかった髪は大分伸びて、首に掛る位にまでなっていたが、指して気にするでもなく煉は足早に鏡の前から立ち去った。

いつの頃からか、彼は自分の容赦が嫌で堪らなかった。